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クラウトファウンディング -日本とドイツのロック-

0. はじめに

私は、今まで友人に「こんなところがこんな感じがして良い」といってCDを貸したり、ユーチューブにある音源をツイッター上でフォロワーに対してシェアしたりすることで素晴らしい音楽を発信してきた。ごく単純に自分がその音楽に対して感じたことをありのままに伝えて音楽を発信していたのだが、今書いているこの文章も、その延長線上に存在するものである。なので、SNSで知らずのうちに流れてきた文章を読むような気持ちで読んで頂きたいのである。予めご理解頂きたい。

今回発信したい音楽とは、私がプログレッシブロック専門サークルに所属して一番好きになったクラウトロックというジャンルである。それがどういったものなのかをはっきり説明できないが、興味を持ってくれたらイチ音楽好きとして嬉しく思う。

1. クラウトロックとは

クラウトロックとは、60年代から70年代にかけてのドイツのロックシーンである。あまり有名ではないと思うが、世間的には『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画に登場する「スタンド」という能力の名前(これには洋楽ロックのバンド名が良く使われている)で「クラフトワーク(Kraftwerk)」が使われていることで、彼らの名前だけは知っているという人もいるのではないか。ある一部のファンに熱狂的に受け入れられているジャンルである。語源は、ドイツの家庭料理の一つである「ザワークラウト」である。イギリスの音楽雑誌上で付けられたということであるが、ザワークラウトが不味いとの評判だったらしく、それ故に少々見下したニュアンスがクラウトに含まれているようである。しかし、クラウトロックを評価しだしたのも、イギリス人であるブライアン・イーノやデヴィッド・ボウイであるのは面白い点である。

クラウトロックの音楽的特徴としては、「反復的」、「実験的」、「不定形」というものがある。「反復的」とはその名の通り、同じフレーズやリフを反復的に使い続けること(一曲で一つのリフしかないということもザラにある)である。それに合わせてギターなどがアドリブ演奏をずっと続けていくことで変化を加えているが、曲の展開はほとんど無いといっても過言ではない。「実験的」というのは、説明が難しいが、環境音(電車の音など、日常生活に存在する音)やノイズ(ドリルの音やマイクがハウリングを起こした時になる音など)を曲中に使用したり、録音スタジオの近くにいた一般人をスタジオで叫ばせて録音し、それを曲に入れたりと、音楽的でなかったものを音楽の一部として取り入れたりすることであると言えよう。そして「不定形」とは、上記二つの特徴の影響もあり、スタジオ音源と同じ演奏を同じようにライブでも再現されるということが難しいということである。アドリブ的なギタープレイや、ハウリングはまだしも、一般人の叫び声を同じように再現することは難しいであろう。音源を聴いてライブを見に行ったはいいものの、全く違う演奏になっていた、ということもザラにある。

これらの特徴は、同年代のメインストリームのロックシーンとは真逆のものであり、当時は世界的に受け入れられることは少なかった。同年代のイギリスのロックシーンは、曲の展開が非常に多く「展開的」であり、クラシック、ジャズといった伝統的な既存の音楽とロックを融合させるといった点で「前衛的」であり、曲の構成もしっかりしている為、ライブでの再現度も高く、「固定的」であると言えよう。しかし、時が経つのと共にクラウトロックは世界的に評価されるようになり、影響を受けたバンドも様々に出てくるようになったのである。

そんなクラウトロックであるが、私が単純にクラウトロックの有名なバンドを紹介しても、グーグル先生に調べて頂く方が詳しくわかりやすく紹介して頂けると思うので、有名なバンドについてはグーグル先生にお願いすることにしたい。そして、私の方からは意外と深い日本との関係性の面からクラウトロックの一例を紹介したいと思う。

2. 日本との繋がり(ドイツに日本を見る)

クラウトロックに限らず、海外なのに日本に関連深いジャンル、バンドなどは良く見かける。クイーンは、メジャーデビュー当時は本国イギリスで評価されていなかったが、日本では評価された(実際はルックスが良かったから買っていたという話もあるが置いておこう)ということで、感謝の意味も込めて日本語歌詞を取り入れた「Teo Torriatte(Let Us Cling Together)」(曲名ママ)という曲を作っている。キングクリムゾンも、東洋文化が好きだったのが行き過ぎたのか、「Matte Kudasai」という曲を作っている。このように日本との関連性は普通のロックシーンでも見られるのだが、クラウトロックはなにかと深い。以下、説明しよう。

まず、クラウトロックと調べて一番に出てくるであろうバンド、カン(CAN)には、彼らの全盛期と言われるセカンドアルバムからシックススアルバムまで、ダモ鈴木という日本人がヴォーカリストとして在籍していた。ヒッピーだったダモ鈴木は、高校を中退して海外放浪をしていたのだが、ヨーロッパでお金がなくなり、パトロン(物好きの金持ち)に世話をして貰っていたところで、それに飽きて路上でギターの弾き語りをして暮らしていた。歌を作らずに即興で歌いながら裸になったり、髪を燃やして居たそうだが、それを見かけたカンのメンバーがバンドに誘ったという逸話がある。そうして彼はカンで活動を始めるのだが、日本人であることを活かして日本語で歌っている曲がある。「Oh Yeah」という曲で、彼らのサードアルバム「Tago Mago」に入っているのだが、とても聴きやすくカッコ良いので是非聴いてみて欲しい。

そして、次は、またクラウトロックと検索して真っ先に出てきそうなバンド、ノイ!(Neu!)のドラマーであるクラウス・ディンガーとの関連に触れたい。彼は、70年代にノイ!にてハンマービートと呼ばれるドラミングを披露して、トランスなどの電子音楽におけるリズムの基礎を作ったと言われる人物である。実際、クラウトロックの「反復的」という特徴に関しては、彼が押し拡げたとしても過言ではないだろうと言える。また、彼はノイ!でパンクロックの原型も作り上げており、セックスピストルズのジョン・ライドンはノイ!の大ファンであったという話もある(聴いてみると確かに歌い方がそっくりである)。そんな彼だが、彼が2008年に亡くなるまで作っていた最後のアルバムは、ドイツ在住の日本人3人とバンドを組んで作っていたのである。その名も「クラウス・ディンガー+ヤパンドルフ(Klaus Dinger + Japandolf)」である。デュッセルドルフにある日本人街、ヤパンドルフに居る日本人の芸術家と組んでいたためにこうなったのであろう。なぜ日本人と組んだかは謎である。そして、アルバムのジャケットには彼が書いた「愛」という字が採用されている(画像参照)。このアルバム中には、「Udon」という曲があり、まさにうどんについて歌っている曲で、しかも歌詞はほぼ日本語なのだが、恐らくクラウトロック関連の音源としては一番聴きやすいものとなっているだろう。個人的には日本でシングルカットでもすれば売れたのではないかと思っているほどである。曲の展開はあるものの、黙々と展開に従って反復をこなす彼らの演奏からは、やはりクラウトロックらしさを感じる。是非聴いて頂きたい一曲である。

他にも、日本人の女性と結婚し、現在は日本に住んでいる「グルグル(guru)」のドラマー、マニ・ノイマイヤーや、「クラフトワーク」の楽曲には「Dentaku」というこれまた日本語の歌詞で歌われている、という点が挙げられるだろう。

3. 日本のロック(日本にドイツを見る)

今まで、ドイツに見る日本の部分を取り上げてきたので、今度は日本に見るドイツを取り上げたい。

世界的に評価されたのが遅かったせいか、日本におけるクラウトロックの影響を感じるバンドも、少し遅れて見られる。ヒカシュー、裸のラリーズ、イエローマジックオーケストラ、P-MODELなどのバンドがいるが、今回は「ゆらゆら帝国」と「J・A・シーザー」、「ボアダムス(Boredoms)」について詳しく述べたいと思う。

まず、ゆらゆら帝国であるが、ギターヴォーカルの坂本慎太郎が自身の影響を受けたバンドとして、カンやノイ!の名前をあげている。デビュー当時は勢いのあるガレージロックといった感じであったが、アルバム「ゆらゆら帝国のしびれ」「ゆらゆら帝国のめまい」の頃から、その影響が(特に「反復的」な面で)顕著に出ている。特に、「ゆらゆら帝国のしびれ」に収録されている「無い!!」という曲は、タイトルがノイ!を彷彿させ、私としてはニヤッとしてしまう。彼らの音楽は、クラウトロックの影響を消化してさらに進化させている様にも思えるものである。演奏は反復的であるが、絶妙な歌メロや重ねたギターによって展開がなされる。特にアルバム「空洞です」は、その名の通り空洞のようなアルバムだ。聴き終えた後にはポッカリと穴が開いている様に感じる。素晴らしい作品である為是非聴いてみて欲しい。

次に、「J・A・シーザー」である。彼は、劇作家である寺山修司が主宰していた「天井桟敷」という劇団の音楽を担当していた人物で、発売されている音源を聴いてみても、半分以上が劇の最中に行われた演奏を録音したものである。彼は、クラウトロックの影響を公言していないが、楽器以外の音も録音され、一つの音源として成立させている。ロックに実験性を加えた点では、クラウトロックと似通っているが、彼の場合はその実験性を劇の効果音かつ音楽の構成要素として取り入れている点で素晴らしい。個人的には「国境巡礼歌」というアルバムが一番好きである。

そして、最後に「ボアダムス(Boredoms)」である。彼らも影響を公言しているわけではないが、やはり影響を感じることがある。彼らがデビューしたての頃は、ハードコアのような、ノイズのような、ハッキリとこれとは言えないとにかくやかましい音楽(褒め言葉である)をやっていたのだが、「Super Are」というアルバムから、音楽性を一変させ、反復を駆使した太陽崇拝トランスへと変貌した。この太陽崇拝トランスは、まさに太陽を崇拝しているような、原始的なリズムを反復し続けるような音楽で、反復による酩酊感はクラウトロックに通ずるものがある。上記の「Super Ae」に加え、「Vision Creation New Sun」というアルバムをオススメしたい。

4. 共通点

さて、私はクラウトロックに若干見下したニュアンスが含まれているということを記した覚えがあるが、覚えているだろうか。実を言うと、日本のロックにも「ジャップロック」という見下したニュアンス入りの言葉が付されることがある。やはり、日本のロックも積極的に評価されていたものではなかった。

この二国における共通点は、やはり第二次世界大戦の敗戦国であるということだろう。敗戦国であること自体がこういった状況に直結させるものではないが、関連するものであるのではないかと思っている。共通する時代背景など、「隠し味」の存在を知ると、クラウトロック、ジャップロックともにより楽しめるようになるだろう。

5. 終わりに

今までクラウトロックという好きな音楽を好きなだけ紹介してきたが、これでその魅力が伝わっていたら幸いである。ガンガン聴いて、ハマって、是非私とクラウトロックについて話をしてほしい。そして、最後に一点アドバイスをして終わりにしたい。この文章を読み終えたら、グーグル先生にクラウトロックのオススメの名盤を教えてもらい、まずはそれを聴いて欲しい。そして、聴きながらこの文章を読んで欲しい。なんとなくクラウトロックというものが理解できるであろう。これをしても興味が湧かなかったら、頭の中からクラウトロックという単語を消して、好きな音楽を聴いて欲しい。

蛇足を加えたところで、またこの文章が読まれることを願って筆を置くことにしたい。

6. 参考文献

小柳カヲル『クラウトロック大全』Pヴァイン 2014年

ジュリアン・コープ『JAPROCKSAMPLER ジャップロック・サンプラー-戦後、日本がどのようにして独自の音楽を模索してきたか-』白夜書房 2008年

以上


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